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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)8160号 判決

原告 渡辺勢津子

右訴訟代理人弁護士 市川三朗

被告 東海興業株式会社

右代表者代表取締役 相羽芳雄

被告 伊藤琢造

被告 大川行信

右被告大川訴訟代理人弁護士 福田力之助

主文

原告の本訴中、被告東海興業株式会社、同伊藤琢造に対する部分を却下し、被告大川行信に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告東海興業株式会社は原告に対し、別紙目録記載の土地につき東京法務局渋谷出張所昭和三五年二月一九日受付第四二九五号をもつてなされた同年同月一八日売買に因る所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被告伊藤琢造は原告に対し右土地につき右出張所昭和三五年三月一五日受付第六九六一号をもつてなされた同年同月一四日売買に因る所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被告大川行信は原告に対し右土地につき右出張所昭和三五年三月一五日受付第六九六二号をもつてなされた同年同月同日売買に因る所有権移転登記の抹消登記手続をなし、かつ右土地を明渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする」旨の判決並に右土地明渡につき仮執行の宣言を求め、≪中略≫

本件被告等を被告とし、本件原告を原告と表示し、本件と訴訟物を同じくし、原告の所有にかかる右土地につき、被告等のために順次なされた前記各所有権移転登記はいずれも登記原因を欠き無効であり、被告大川は右土地を不法占有するものであるとして被告等において、それぞれ右所有権移転登記の各抹消登記手続及び被告大川において右土地の明渡をなすべき旨の請求がなされた東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第六〇八五号登記抹消等請求事件において、同裁判所より昭和三六年一二月一五日被告東海興業株式会社につき原告の請求認容の判決の、昭和三七年五月三一日被告伊藤につき原告の請求認容、被告大川につき原告の請求棄却の判決の各言渡がなされ、さらに被告大川を被控訴人とする原告名義の控訴に基き、東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第一三七三号事件として、同裁判所より昭和三八年五月二九日控訴棄却の判決の言渡がなされたが、右訴訟は青木久子が本訴請求原因記載の如き行為をなした後始末として、同人において本件原告名義を冒用して訴訟代理人に訴訟委任をし、これをして本件原告名義をもつてなさしめたものにかかり、本件原告の関知するところではなかつたのである。民事訴訟において当事者として確定判決の効力に服するには、その判決において当事者として表示されただけでなく、現に原告として訴を提起しまたは控訴人として控訴を提起することを必要とする。訴訟並に判決に原告または控訴人として表示されても、訴ないし控訴がその名義人の提起したものでないときは、その訴訟において言渡された判決はこれに対して効力を生ずることはない。なんとなれば原告または控訴人は当事者として関与しない訴訟において言渡された判決により拘束せられることのないことは民事訴訟の原則で、原告または控訴人として判決に表示された一事のみをもつて、その形式上、実質上の効力をこれに及ぼすことを得ないのは事理の当然であるからである。前記訴訟は本件原告の全く関知しなかつたもので、相手方と本件原告との間には訴訟関係は成立しないのであるから、これにつき言渡された判決は、当事者ではなく単なる表面上の原告にすぎなかつた本件原告に対して効力を生ずることはないのである。従つて本件原告としては、東京高等裁判所が昭和三八年五月二九日言渡した前記判決に対し、不服の申立をする必要を見ずまたその理由もないので、右判決に対する昭和三八年六月二四日付上告は、本件原告自身より右上告における手続の委任を受けた本訴の原告訴訟代理人において、昭和三九年五月一八日これを取下げたものである。≪中略≫

被告大川訴訟代理人はまず「原告の訴を却下する」旨の判決を求め、原告はさきに被告等を相手方として東京地方裁判所に、本訴と請求の趣旨、原因は同一で、単に攻撃方法を異にするにとどまる訴を提起し、(同裁判所昭和三六年(ワ)第六〇八五号)被告大川については、同裁判所において昭和三七年五月三一日原告の請求棄却の判決があり、原告から控訴し、東京高等裁判所昭和三七年(ワ)第一三七三号事件として、同裁判所において昭和三八年五月二九日控訴棄却の判決があり、原告はさらに上告したが、昭和三九年五月一八日上告を取下げ確定した。従つて本訴は右確定判決の既判力に牴触し、不適法として却下さるべきである。≪以下省略≫

理由

本件被告等を被告とし、本件原告を原告と表示し、原告主張の如き請求がなされた東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第六〇八五号登記抹消等請求事件において、同裁判所より昭和三六年一二月一五日被告東海興業株式会社につき原告の請求認容の判決の、昭和三七年五月三一日被告伊藤につき原告の請求認容、被告大川につき原告の請求棄却の判決の各言渡がなされ、さらに被告大川を被控訴人とする原告名義の控訴に基き、東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第一三七三号事件として、同裁判所より昭和三八年五月二九日控訴棄却の判決の言渡がなされたことは原告の自認するところである。

そうするとかりに、原告主張のように右訴訟が、青木久子において原告多義を冒用して訴訟代理人に訴訟委任をし、これをして原告名義をもつてなさしめたものであるとしても、右訴訟の原告並に控訴人は右の表示に基き、本件原告であり、右の判決はいずれも当然本件原告その人を名義人とするものと解すべく、まして成立に争いのない乙第四、第六号証の記載内容からみても、右訴訟においては、実際上でも、明らかに青木久子を第三者とし、同人その他ではなく、右の表示のとおり、本件原告その人が当事者とされ、これに対し判決の言渡がなされたものと解する外はないのであるから右の判決の効力は当然本件原告に及ぶとしなければならない(原告のこの点に関する主張は採用し難い)し、また右の判決は、当該被告等及び本訴で原告より、青木久子において本件原告名義を冒用して訴訟委任したものだといわれている訴訟代理人に各その言渡の頃、それぞれ送達されたことが明らかであり、昭和三八年六月二四日付上告も、原告のいうようにその取下がなされた以上、すべて確定したといわざるを得ない。

してみると原告の本訴中被告東海興業株式会社及び被告伊藤に対する部分は、原告において右被告両名に対し同一の請求につき既に勝訴の確定判決を有するのであるから、特段の事由のない限り不適法として却下を免れず、また原告は本訴で、前記訴訟の控訴審の口頭弁論終結時以降に生じた事由を主張するものではなんらないから、原告の被告大川に対する請求は、両者間の前記確定判決の既判力により、理由のないものとして棄却を免れない(かかる場合でも原告の被告大川に対する訴自体が不適法となるものではないと解するのが相当であり、この点に関する被告大川の主張は認め難い)。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 園田治)

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